奥多摩尾根歩き
モリノ窪熊穴窪中尾根、ハンギョウ尾根

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今回はモリノ窪熊穴窪中尾根を登り、 ハンギョウ尾根を下りました。
モリノ窪熊穴窪中尾根はテキトーな名付けですが名前の通り、モリノ窪と熊穴窪という谷に挟まれた尾根です。モリノ窪と熊穴窪は犬麥谷という谷が中流部で二俣に分かれた左と右で、犬麥谷は小川谷の上流で左岸に流れ込んでいいて、小川谷と言えば、、、やがて太平洋に注ぎます。モリノ窪熊穴窪中尾根のてっぺんは長沢背稜の七跳山と大栗ノ頭の間にある標高1550m圏(以降「標高」は省略)のピークなんですが、古い地図には石橋とか石橋岩場という名前が記載されています。そんな岩々っぽいピークの南面には前衛のようにモコモコと、これまた岩記号が並んでいます。
ハンギョウ尾根長沢背稜のハンギョウノ頭をてっぺんにして南西に下り、小川谷に没している尾根です。
まずはモリノ窪と熊穴窪の出合あたりで取付を探し、モコモコ岩記号をめざす、という尾根歩きの出発です。
コース JR青梅線奥多摩駅→[START]東日原バス停→林道小川谷線→(1時間45分)大栗尾根横っ腹の階段→小川谷左岸中段道→(45分)モリノ窪熊穴窪中尾根西隣尾根の取付→モリノ窪熊穴窪中尾根→(2時間10分)長沢背稜登山道→ハナド岩→(25分)ハンギョウノ頭→ハンギョウ尾根→(1時間30分)かろう橋→(45分)[GOAL]東日原バス停→JR青梅線奥多摩駅
(7時間20分)
歩いた日 2023年9月18日(月)
※赤い線が歩いた軌跡です。ただ、正確無比なものではありません。あ〜、そ〜、このあたりを歩いたんだ、程度の参考にしてください。

JR青梅線奥多摩駅→[START]東日原バス停→林道小川谷線→(1時間45分)大栗尾根横っ腹の階段→小川谷左岸中段道→(45分)モリノ窪熊穴窪中尾根西隣尾根の取付→モリノ窪熊穴窪中尾根→(2時間10分)長沢背稜登山道


モリノ窪熊穴窪中尾根にちょくせつ取付くのは難しそうでした。そこでまず西隣の支尾根を登ってから乗り移る算段でガレた小さな崩落地に取付くことに。支尾根もモリノ窪熊穴窪中尾根も急登かやや急登でできていて、ヤセた岩稜をたどったり岩がけを這い上がって大岩を巻いたり、短いけれどとてもおもしろい尾根でした。

おはようございます。東日原バス停から日原街道を歩き、小川谷橋を渡って右折。左上に一石山神社、右下に日原鍾乳洞を通過して林道小川谷線に踏み入ります。
JR某駅でヒゲの渋いSさんが乗り込んできて、奥多摩駅前で東日原行きバスを待っているとSさんの友人Tさんもバス停に。わたくしは初対面。3人であーだこーだと喋りながらてくてく歩き、Sさんはかろう橋の欄干に腰をおろしてスパッツを履き、道が整備されたらしいカロー谷へ。
バス停から1時間45分ほどで大栗尾根の横っ腹に登れる階段に到着。終始にこやかで柔和な人柄(多分)がにじみ出ているTさんは、上滝尾根からタワ尾根に向かいます。同ルートで紅葉を愛でるためのコースタイム調査だそう。用意周到な人柄(多分)がにじみ出ています。
階段の下でザックから杖や軍手を引っ張り出し(タオルは首に掛け済)、いよいよ山登りです。大きめのくの字くの字で高度を上げていきます。
980m圏の分岐です。ちょっと迷って直進。
大栗尾根です。
1050m圏で大栗尾根に乗りました。左下隅から登ってきて折返してその上の道(小川谷左岸中段道)をたどります。
ごくゆるやかな登りが続きます。
1070m圏の分岐です。980m圏の分岐はここに登ってくるに違いありません。ショートカットを逃してしまいました。「えっ、こっちの店のほうが卵安いじゃん」みたいな軽いショックです。
ショックが消える間もなく、犬麦林道の終点が見えてきました。
犬麦林道に乗りました。これは林道のどん詰まりです。右下隅から登ってきました。その少し上にはっきりした踏み跡が大麦尾根の稜線に向かっています。
振り向いて犬麦林道を歩いていくとすぐに熊穴窪が見えてきました。
熊穴窪という名前なんですが、私が目にした1950年代から60年代の登山雑誌や書籍の遡行図や記事にはことごとく熊穴窪ではなく、「大栗窪」と記載されています。そんな出版物のひとつ『登山とハイキング案内 : 登山地図帖』(山と渓谷社 1958)という書籍に「(前略)地図で見るとここでほゞ同等の沢が二分されているが、実際には右の大栗窪(昔は熊穴窪と呼んでいた)のほうが二股からは立派に見える小滝の段など覗いていて変化がありそうに思われ易い。左のモリノ窪は荒涼たる伏流を呈して興趣をそがれるが、(後略)」と書かれていました。
どうやら時とともに熊穴窪から大栗窪に名前が変わったようです。確かに『奥多摩』(宮内敏雄 昭和刊行会 1944)の38ページの地図には熊穴窪と記載されています。手元の『奥多摩 登山詳細図(西編)』(2017)はこの古称を採用して熊穴窪としています。わたくしの記事も古称にならうことにしました。
熊穴窪にはモリノ窪(犬麦谷)と同じような石橋(コンクリート橋)が架かっていました。正面に見えるモリノ窪熊穴窪中尾根は絶壁です。

犬麦林道のほぼ終点、熊穴窪に架かる石橋からモリノ窪熊穴窪中尾根を見上げてみました。ここからは取付けそうにありません。
地形図では谷をさかのぼって岩壁をぐーっと左へ回り込めば等高線はややゆるんでいるんですが、さかのぼれるのかどうかは橋の上からは不明。悩ましいところです。
石橋を渡って取付けそうな場所を探してみます。すぐに小さな崩落地がありました。ここからモリノ窪熊穴窪中尾根の西隣の支尾根に登れそうです。まず支尾根を登り、いい塩梅の場所でモリノ窪熊穴窪中尾根に移る、というそこそこ楽観的、能天気な道筋を描きました。
ガレた崩落地を登ってきて
登るんですが、右手から正面にかけては低いけれど灌木に覆われた崖。左手に回り込みます。
埋もれかかったワイヤーロープをまたぎます。
頭上は岩やら灌木やらでぐちゃぐちゃ、先行きが見えません。逃げるようにさらに左に回り込みます。
稜線に向かうルートが見つかりました。岩やら根っこをつかみながら斜めに登っていきます。
ようやく支尾根に乗りました。岩がちのとんでもない勾配です。
這い上がってきて
大岩を回り込んだり、
左手がビシッと切れ落ちたヤセ尾根にあえぎます。
モリノ窪熊穴窪中尾根は谷地形の対岸に険しい岩壁の横っ腹を見せています。とてもじゃないけれどまだ移れません。
谷地形をずーっと見上げるとあのあたりで右に移動できそうです。
相変わらずのキツい傾斜を登ってきて
振り向くとタワ尾根の向こうに天祖山がちらりと見えていました。
振り向き、登ります。
急登がゆるむ気配はありません。
尾根上は相変わらず岩がちです。
ビシッとした岩ゴツのヤセ尾根。
ここが隣の尾根と逆V字形につながっている接点で、
V字の屈曲部をごく短いトラバース(山腹水平移動)がつないでいます。1260m圏です。
トラバース中に谷地形を見下ろします。
移った尾根は小尾根でモリノ窪熊穴窪中尾根はまだ向こうでした。小尾根を越えて薄っすらと続いている踏み跡をたどります。
やっとモリノ窪熊穴窪中尾根に立ちました。1250m圏です。尾根の下方。こちらもかなりの勾配です。

ようやくモリノ窪熊穴窪中尾根に乗ってぐるりと見回してみました。
登ります。
岩はすっかり姿を消し、尾根は広がってきました。
と思っていたらまた岩が出てきたのが1330m圏。
あの先にも岩が見えます。岩に向かってキビシい急登です。
1390mあたりでようやくゆるやかな勾配なりました。
クマの糞。1か所でこれだけ大量の糞を見たのは初めてなので思わず写真を撮りました。しかもしっとりと新鮮。さすが熊穴窪右岸、などと感心します。そう言えば前回の「タツマの滝、モリノ窪右岸尾根、七跳尾根」にも書きましたが、この中尾根に狩猟場(タツマ)があってタツマの滝の名前の由来になったらしい。狩りのターゲットは熊だったのでしょうか。
クマの糞を過ぎるとすぐにまた急登が始まりました。
バッキバキな場所を通過します。
ふっ、と急登がやんだと思ったらあの先に岩が立ちふさがっています。
岩に近づきます。ここが地形図の岩記号でしょう。わたくしの腕では全貌を撮りきれません。
左に回り込んで木の幹や根っこをつかみながらテキトーに岩崖を這い上がります。
今回の尾根歩きの計画時からちょっとビビっていた岩記号ですが、意外とあっさりと
乗り越えられました。ちょっぴり拍子抜けではあります。などと思っていたら、
こ、こ、これは触れるだけでも炎症を起こす猛毒を持つというカエンタケにそっくりです。致死量は3gだそう。けれども食べられるけれどもそれほどおいしくないベニナギナタタケにも激似。げに恐ろしきはキノコの世界です。
岩記号を乗り越え謎の赤キノコを過ぎ、ひと登りすると
長沢背稜の登山道(林道)に出ました。左隅のやや下に桟道が見えています。
頭上が石橋です。この一帯の尾根は石橋尾根という名前があるようで前出の『奥多摩』には「東微南に降る主脈は、石橋尾根と呼ばれる岩骨稜々たる痩尾根で、小川谷源頭からも相當鋭く仰がれる處だ。現在の林道は梯子坂ノ頭以東、終始縣界尾根の南面を搦んでゐるもので、素より通過に障りはない」(40ページ)という記載があります。確かに木立の向こうに切り立った岩崖が見えます。登れなくはなさそう(おそろしく希望的観測)ですが、ここでモリノ窪熊穴窪中尾根はおしまいとします。
長沢背稜を東(右)へ。もう一度石橋を見上げてハンギョウ尾根をめざします。