奥多摩尾根歩き
タツマの滝、モリノ窪右岸尾根、七跳尾根

(1/2)


今回はタツマの滝(大滝)を見学し、モリノ窪右岸尾根を登り、七跳尾根(ななはねおね)を下りました。
タツマの滝は日原の深部、犬麦谷の上流にかかる滝で3段50mの奥多摩屈指の大滝らしい。犬麦谷は下流部で小川谷林道が横切り、上流部で犬麦林道がもう一度横切ります。犬麦林道から犬麦谷沿いを登ってタツマの滝をめざしました。
タツマの滝を眺めながら溜まりに溜まった煩悩を流し落とす、というのが今回の大眼目だったんですが、「けれどもまぁ、せっかくだから尾根のひとつも歩いてみようじゃないか」と欲丸出しでタツマの滝の上流で右岸の尾根(モリノ窪右岸尾根)を登ろうとしたんですが、これがなかなかキビシくも面白い尾根歩きになってしまいました。
コース JR青梅線奥多摩駅→[START]東日原バス停→林道小川谷線→(2時間10分)小川谷林道終点広場→林道犬麦線→(20分)石橋→犬麦谷→(25分)タツマの滝→(20分)石橋の近く→モリノ窪右岸尾根の西隣の尾根→モリノ窪右岸尾根→(2時間10分)七跳尾根合流→七跳尾根→(40分)犬麦林道→小川谷林道→(2時間)[GOAL]東日原バス停→JR青梅線奥多摩駅
(8時間5分)
歩いた日 2023年8月26日(土)
※赤い線が歩いた軌跡です。ただ、正確無比なものではありません。あ〜、そ〜、このあたりを歩いたんだ、程度の参考にしてください。

JR青梅線奥多摩駅→[START]東日原バス停→林道小川谷線→(2時間10分)小川谷林道終点広場→林道犬麦線→(20分)石橋→犬麦谷→(25分)タツマの滝→(20分)石橋の近く


タツマの滝は犬麦谷に架かる石橋からアプローチしました。グズグズのガレガレの左岸を歩き、とんがった小さい岩稜の右側の急斜面をヒーコラと登り、岩稜を越えるといきなり目の前にでっかい滝が流れ落ちていました。

おはようございます。東日原バス停を出発して蝉の抜け殻を通過します。スジアカクマゼミという蝉の抜け殻は蝉退(せんたい)といって湿疹なんかに処方される消風散という漢方薬に配合されているらしい。
小川谷橋を渡って右へ。左手上に一石山神社、右手下に鍾乳洞を見ながら通過し、日原燕岩洞門をくぐって籠岩に沿って歩くと小川谷林道の起点です。
林道をてくてくてくてく歩き、滝上谷に架かる滝上谷橋(たきうえたにはし)に到着。かつてこの上流に簾川(きよかわ)鉱山というマンガン鉱が採れる鉱山があったことが『鉱物採集フィールド・ガイド』 (草下英明 草思社 1982 91-92ページ)に記載されています。この写真右側の落ち葉が積もったあたりに鉱石の積み下ろしに使った貯鉱場があったらしい。「主鉱石はハウスマン鉱で、暗褐色、チョコレート色の、最上鉱とされるもの」「目玉品は、ウィゼル石というマンガン硼酸塩鉱物」などと門外漢のわたくしには内容はさっぱりだけど興味深いです。
犬麦谷が見えてきました。「令和3年度 林道小川谷線復旧改良工事 谷止工 東京都水道局」で護岸や堰堤で谷をがっちり固めています
犬麦をウィキペディアで調べてみると「イヌムギは、ありふれたイネ科の雑草の一つ」との説明。なんだか失礼な物言いだけど確かによく見かける草ではあります。そんな「ありふれた」草を谷の名前にするなんてちょっと不思議です。なにか隠された大きな陰謀があるのかもしれません。
「犬麦谷には終戦後まで5~6軒の家があった。日当たりのよい温かい場所で炭焼きやワサビつくり、箸つくり等が営まれていた。犬麦とは、植物の名前」(『多摩川源流部の沢・尾根・淵・滝・小字等の地名と由来に関する調査研究』―奥多摩編― 中村文明 財団法人 とうきゅう環境浄化財団 2006)という記述もありました。陰謀はなく、たんにテキトーな名付けだったのかもしれません。違ったらごめんなさい。
犬麦谷に架かる橋に立ちました。ちょっと上流に犬麦林道、その上流にタツマの滝が流れ落ちています。ここを遡上すればそーとーなショーットカットになるかもしれませんが、どんな難所が待ち構えているかわかったものではありません。引き続き林道を歩きます。
林道終点広場に到着。左奥は三又(みまた)経由で酉谷山に向かう旧登山道です。右に大きく曲がっていく犬麦林道へ進みます。
林道終点広場は小川谷下流方向、南方が開けています。下山時、この風景が一変します。
犬麦林道を歩いて5分ほどで七跳尾根への登り口を通過。
流れは見えませんが犬麦谷の音が聞こえてくるようになり、
崩落地を過ぎると
犬麦谷に架かる石橋に到着です。何度も岩で叩かれたみたいです。
石橋から犬麦谷の上流。
犬麦谷の下流。とは書いていますが、正直なところここが犬麦谷かどうかはっきりわかりません。地形図によるとこの下流で谷は二俣に分かれているんですが、古い雑誌や書籍は左俣をモリノ窪、右俣を大栗窪としているものがほとんど。例えば『奥多摩 : 登山地図帳』(奥多摩山岳会 山と渓谷社 1955 91ページ)には「上流は明るい二俣で、右の暗い水のある方が支流の大栗窪で、左の荒れた伏流が本流であるから、ここは必ず左のそれに入らなければならない。本流は名もモリノ窪と変え、犬麦谷遡行の真価はこれより上流にある」と記載されています。
また『奥多摩・大菩薩 (ニュー・マウンテン・ガイドブックシリーズ 3)』(横山厚夫 朋文堂 1963 92ページ)にも「(前略)右から大栗窪がはいる。ちょうど二又みたいになっている。ここで左をとってモリノ窪と名を変えた谷をさかのぼる」という記述があり、同項目の遡行図(上図 93ページより部分を引用 国立国会図書館蔵)ではタツマの滝はモリノ窪(瀑流帯)に含まれています。左の枠内は大小の滝がどっさり連続するモリノ窪瀑流帯の詳細図です。中尾根って気になります。
タツマの滝といえば犬麦谷、と思っていたんですがどうやら雲行きが怪しい状況です。これからはタツマの滝といえばモリノ窪、ということを胸の内に秘めて暮らしていこうと思います。
まっ、そんな御託はともかく、石橋の上でザックからピッケルをはずし、軍手とチェーンスパイクを引っ張り出し、ペットボトルに詰めてきたほうじ茶をグビグビと飲んで出発しました。左岸のザレてガラガラの道をたどり、すぐに谷沿いから離れて急登です。
登ってきて
あの真正面がモリノ窪右岸尾根ですが、うーん、取付きようがなさそうです。ほぼ無理。まっ、まずはタツマの滝です。
右手の小ぶりな岩稜の右横に続く急勾配の踏み跡をたどり、
岩稜を乗り越えると、
眼の前にタツマの滝が現れました。大迫力です。小尾根の反対側に畳1枚くらいの広さの滝見台みたいな場所があります。降りてみました。深い谷に向かってちょっと傾斜しているのでちょっと怖いです。けれども煩悩を流し落とすためにじっと滝を眺めます。ほうじ茶を飲んで上から下へ下から上へ眺めます。じっと眺めます。煩悩は108もあるというから全部は無理にしても4つ5つは落ちたに違いありません。
タツマとは「猟場」の意味らしいです。左岸の中尾根にタツマがある(あった)ことからタツマの滝という名前がついたという記述がありました(『山 十一月号 第188号』真鍋健一 68ページ 朋文堂 1951)。同記事には「垂直一〇〇米を思はせる井戸の底のようなゴルジュの奥に、僅かに開いた天の一角から、黒い岩を這うように落下する、目測五〇米の直瀑が頭上を壓する壮観に身ぶるいする。日原全渓谷中、水量こそ少ないがこれほどの落差を持つ滝は他にはない。環境といい、これを取巻く岩壁といい、まことに比類のない幽瀑である」という表現もあり、わたくしの下手な写真なんかよりよっぽど滝の迫力が伝わってきます。

小さな岩稜の横を登ってきて岩稜から首を出したら大きな滝が眼前に現れました。
あの落ち口を右岸に渡渉すればモリノ窪右岸尾根の横っ腹で、すぐに尾根に取付けるんじゃないの? とんがった岩稜をもう少し登り、トラバース(山腹水平移動)すれば落ち口に立てそうです。ふふふ、ナイスなアイデアです。ただ、右岸が安全に取付けるような場所かどうかは、この位置からはいまひとつはっきりしません。
岩を抱えるようにしてもう少し岩稜を登ると落ち口の右岸がみえたんですが、これはとてもじゃないけれど取付けません。もう少し登って
違う角度から観察したんですが、どうも無理っぽい。さらにもう少し登って
一段上の落ち口の右岸を見てみたんですが、どうやらこちらも取付けそうにありません。

一段上からの滝。さらにもう少し登ってみたんですが、
落ち口はおろか滝も見えづらくなってきました。
もっと上に行くにはこんな岩登りが待ち構えています。滝の上を渡渉してモリノ窪右岸尾根に取付くのは断念。
引き返してモリノ窪右岸尾根に取付く算段をつけることにします。恐ろしい下りです。
岩稜左の斜面のほうがラクそう、と思って岩稜から降りていったんですが、これは大間違いでした。急斜面のトラバースが続いたり股が裂けんばかりの段差もあって、
必死に下ってきて
下ります。